空室率と平均賃料

事例

渋谷を含む都心エリアで再開発が急ピッチに進められており、オフィス床面積は今後も大量に供給されるということ、2023年には大量のオフィスビルが竣工することから、需給関係が崩れオフィス市況の悪化が予測されていること(2023年問題)について前回までにお伝えしました。

1つ直近の事例を紹介します。2023年6月末に森ビルと日本郵便が主導する麻布台ヒルズ A街区、C街区が竣工しました。A街区の「麻布台ヒルズ森JPタワー」の高さは約330mであり、大阪の「あべのハルカス」を上回り日本一の高層ビルとなりました。この「麻布台ヒルズ森JPタワー」はオフィス、レジデンス、商業施設等から成りますが、2023年7月6日付日経新聞によると、オフィスフロアは空室を残したまま竣工を迎えたようです。要因は外資系IT企業など大型テナントがオフィス拡張の判断を見送りしたためとのこと。日本一の高さの新築ビルであるという話題性がありながらもテナントを集めるに苦労しているという現状については把握しておくべきでしょう。

オフィス空室率推移

都心5区と渋谷区のオフィス空室率推移は以下の通りです。(三鬼商事のオフィスビル市況調査結果より)

グラフを見ると、コロナが流行を始めた2020年前半から空室率が急激に上昇していることが分かります。都心5区平均では、2020年2月に1.49%だった空室率が2021年6月に6%を超過、直近の2023年6月には6.48%となっております。6%を超過してからは一度も6%を下回ることはなく、およそ2年間高止まりを続けている状況です。

渋谷区の空室率推移は都心5区平均と異なった動きをしていることが見て取れます。コロナを機に空室率が急激に上昇を始めたことは都心5区平均と変わりませんが、2021年9月に6.75%となって以降は若干の改善傾向が見られました。とはいえ、コロナ以前の空室率は0.8~2%未満と、ほとんど満室状態であったことを考えると、現状が悪化しているという事実に変わりはありません。2023年2月には3.42%まで回復しましたが、2023年6月には4.55%となっており直近ではまた上昇に転じている状況です。

オフィス平均賃料推移

都心5区と渋谷区のオフィス平均賃料推移は以下の通りです。(三鬼商事より)

空室率と賃料はセットで見る必要があります。当然の原理ですが、賃料を下げればテナント付けが容易になり空室率は改善されるからです。コロナ渦以降オフィスの解約が相次ぎました。この空室を埋めるために賃料を下げざるを得ない状況に陥っていることがグラフを見て読み解けるかと思います。新築ビルは2020年8月に33,235円/坪の最高値を付けてから、直近の2023年6月には27,133円/坪と、18.4%も平均賃料が下落している状況です。

 2023年6月時点最高値からの下落率
都心5区全体19,838円/坪-13.8%
渋谷区21,850円/坪-14.4%
都心5区(新築ビルのみ)27,133円/坪-18.4%

おわりに

オフィス空室率6%台は気にする水準ではないという記事を見かけました。諸外国の空室率は10%が普通の水準であり、それと比較したら日本は恵まれている、賃料を下げればテナントはいくらでもいるという意見です。これは地権者でもない全くの他人である一記者の意見に過ぎないものですが、所有者にとっては空室はない方が良いというのは言うまでもないですし、賃料も下げたくはないはずです。

もし宮益坂に高層オフィスビルができたら、私たちが納得いく賃料で空室を埋めることは容易と言えるでしょうか。これまで述べてきたことからも楽観視できる状況にないことは明らかです。大企業の東急とヒューリックが言っているのだから信用できるしきっと大丈夫に違いない、他の地権者も賛成しているようだし私も合わせておこう、このような思考に陥ってはいないでしょうか。都合の良い情報だけを鵜呑みにするのではなく、あらゆる視点から再開発のメリットデメリットを把握し、最終的な投資判断をしなければなりません。

自分の身、自分の資産は自分で守らなければなりません。この文書が宮益坂再開発について考えるための一助となれば幸いです。

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